地域だけではない、大学だけでもない、持続可能な成長をし続けるための総合診療ニューラルネットワーク

NEURAL GP network 島根県発・総合診療医養成プロジェクト

   2023 Shimane GP 一歩前へ!

2021年4月島根大学医学部付属病院総合診療医センター(通称しまね総合診療センター)が立ち上がって、2年が経ちました。あっという間でした。ほんといろんなことをやりましたね。

まずは、東西230km、隠岐という離島を抱え、中国山地も奥深く、新幹線・高速道路が完備されていない距離のハンデを克服するために、ITCを駆使して、Virtual Officeを構築。

ビジネスチャットツールであるslackでのやりとりは2年間で4万8千件、ファイルは1万件を超えました。これは白石、和足が指示出しをして命令に従ってプロジェクトを動かす形ではありえない数です。我々のコンセプトである神経細胞がつながりながら進化していく様を模したまさにNeural GP Networkのなしえる様です。島根県内の総合診療医、そして総合診療マインドを持って診療にあたる仲間のフラットなコミュニティから様々なアイデア、プロジェクトが生まれ、全員で取り掛かっているからこそのエネルギーです。

ざっと2年間を振り返ってみます。地域の医療機関と協力して行った入学前の高校生のオンライン体験実習。コロナ禍で実体験が行えないなか、2021年、2022年と2年間にわたって島根の地域医療を感じてもらえるようみんなで工夫をしてほぼ100名の高校生に体験してもらいました。その子たちが、志を持って島根大学医学部を受験し、入学してきてくれています。

4年生では37症候の授業を行っています。Near-Peer Tutoringによる症候学授業。5年生6年生の先輩にスライドづくりやプレゼンの指導をしてもらい、同級生の4年生に講義。そしてそれを約20名の地域の総合診療医が総括しています。この取り組みは2021年のプライマリ・ケア連合学会でチューター役の学生が発表し、優秀発表賞をいただきました。

そして5年生になるとその総合診療医が働く地域の医療機関で全員が4週間連続の地域実習を行います。初めての学外実習になり、緊張や不安もあるようですが、熱意をもって指導する総合診療医のところでの実習から大きな学びを得ています。4週後の最終日には実習報告会を3時間行います。16の医療機関のうち一つしか選べませんが、自分が行った実習先が最高だった、4週間で人生が変わる体験であった、といった声が聞かれています。総合診療というものを正しく理解してもらえていると感じます。

 課外授業としては、4種類の高度総合診療力修得コースを開催しています。ポートフォリオを書くところまでやる総合診療医体験コース。身体診察臨床推論を極めていくコース。エコーの技術を習得するコース。臨床の疑問を論文化していくコース。島根県内の若手・中堅からベテランの総合診療医が総がかりで取り組んでいますが、それぞれ指導医の熱量にまけない学生の盛り上がりを見せています。症候学の授業については2021年に島根大学優良教育実践表彰、高度総合診療力修得コースについては2022年に表彰をうけました。

 また、2022年は年間の一人当たりの英語論文数が院内トップクラスということで、病院長表彰もいただきました。

症候学に始まった無料公開VODコンテンツも、家庭医療学、マネージメント、総合診療医がさらに学びたいAdvancedとくわえて、155になりました。学外の活動としては、2022年医学書院雑誌「総合診療9月号」の島根特集。現在も進行形の日経メディカルオンラインエコークイズ「しまね総診からの挑戦状」。Good Design賞金賞受賞もありました。これは総合診療医が増えない一つの理由は、住民、患者さんから私の主治医は総合診療医でよかった、総合診療医がいい、といった声が聞かれないこと、と考え医療の枠を超えて総合診療医とは、島根の総合診療育成とは、ということをPRするためにチャレンジしました。

 県内全体を見渡す形でのチーフレジデント制度や総合診療の集い、さまざまなウェビナーなど書ききれませんが、この2年で総合診療をとりまくムードは明らかに変わってきています。総合診療って大丈夫?よくわからん?から、なんかイケてる、楽しそう、に。

ほぼすべてへき地で高齢化先進県である島根だからこその総合診療医のやりがい、魅力、そして苦労も含めて若者たちに伝えていきたい。そして総合診療医育成を軸に日本の未来を夢のあるものにしていきたいと考えています。まだまだやること、やれることがあります。今年度もしまね総診一丸となって進んでいきます。

2023 Shimane GP 一歩前へ!

2023年春 しまね総合診療センター長 白石吉彦