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NEURAL GP network 島根県発・総合診療医養成プロジェクト

オキフェス2024を振り返って

 報告者 隠岐病院 助永親彦

〜離島医療の未来を共に考える 2 日間〜

オキフェスとは
 「オキフェス」は、離島医療の現場を隠岐の島で実際に体験してもらうために考えたイベントで、今回が 3 回目の開催になります。コロナ禍を経て、オンラインでの学習や情報収集が進む中、現地でしか得られない学びや、リアルな体験を通じた地域医療・離島医療に対する深い理解を提供することを目的としています。
 今回の「オキフェス 2024」では、島根県の隠岐の島町にある都万地区(旧都万村)を拠点に、2 日間にわたるプログラムを展開しました。離島という特殊な環境での医療提供にどのような課題があり、どのように住民の健康を支えているかを現場で学ぶ機会を提供するため、病院見学、フィールドワーク、地域住民との交流、医療課題解決策のプレゼンなどのイベントを提供しました。
 今回の参加者は 29 名に及び、医学生、研修医、看護学生、現役看護師、薬剤師など職種も非常に
多岐にわたっていました。また、参加者の地域も、山陰だけでなく、大阪、神戸、京都、滋賀、富
山、佐賀、東京など、さまざまな場所から集まり、多様な視点で離島医療に触れる機会となりまし
た。
 共催いただいた島根大学総合診療医センターの支援のもと、総合診療医や医学生を含む参加者が実
際に現場でしか体験できないことに焦点を当て、離島のリアルを詰め込んだ濃密なイベントとなり
ました。


1日目の様子

1日目の朝、フェリーでの到着

 実は、オキフェス直前まで台風14号の影響を大きく受けていました。参加者の大半が利用するはずのフェリーが、出航するかどうか分からず、私たちスタッフもギリギリまで悩みながら状況を見守っていました。海上のコンディションが安定するか不安な中、結果的には素晴らしい青空のもと、西郷港に無事フェリーが到着した時には、スタッフ一同ほっと胸を撫でおろしました。しかし、参加者の中には5メートルの高波の中で船酔いをした方々もおり、体調不良を訴える方がちらほら見られました。用意していた五苓散を内服してもらい、体調の回復を促しました。



隠岐病院でのオリエンテーションと病院見学

 隠岐病院に到着後、まずはオリエンテーションと院長の挨拶を行い、離島医療の現状と課題について説明しました。その後、参加者たちは隠岐病院の見学ツアーに参加しました。

  • 屋上ヘリポート
    年間100〜120件もの空路搬送があり、隠岐病院から県立病院までのヘリ移動が約25分で行われることを説明しました。離島という地理的条件を考えると、ヘリポートは生命線であり、その重要性を強調しました。
  • 救急外来
    隠岐病院が離島唯一の医療機関であるため、どれほど重症な救急患者であっても必ず一旦隠岐病院に搬送されることを説明。これは離島医療の厳しい現実を示すもので、スタッフの救急対応スキルの向上が強く求められている点も参加者に伝えました。
  • 放射線部門
    隠岐病院ではCTやMRIなど、一般的な総合病院と同等の放射線機器が整備されており、24時間体制で利用できることを説明しました。さらに、外傷患者や手術時に輸血が不足した場合、院内採血による輸血に対して放射線照射をする装置も島民の命綱として重要であることを強調しました。
  • 3階西病棟(究極の混合病棟)
    この病棟では、産婦人科、小児科、外科、整形外科、歯科口腔外科、内科などが一つの病棟に集約されています。全国で335ある二次医療圏の中で最小の人口を抱える隠岐医療圏の拠点病院として、幅広い診療科目を少ない人数で対応していることを説明し、隠岐病院が唯一無二の存在であることを理解してもらいました。

 今回の見学では、休日のため患者さんの診療を直接見ていただくことはできませんでしたが、各部門を回る中で離島医療の現状を伝え、参加者の理解を深めることができました。短時間で多くの情報を詰め込みましたが、参加者は真剣に話を聞き入っており、私たちもこの熱意に応えられるよう丁寧に説明を行いました。


フィールドワーク: 都万地区での体験

 隠岐病院の見学後、参加者たちは6つのグループに分かれて、都万地区(旧都万村)でのフィールドワークに向かいました。移動中のバスでは、講師の奥知久先生からフィールドワークの心得や、CAP(Community As Partner)モデルについて丁寧な指導がありました。奥先生はバスガイドも兼任し、参加者たちはさながら修学旅行のような楽しい雰囲気の中で都万地区に向かいました。

 フィールドワークでは、各グループが地元住民と触れ合いながら、地域の文化や課題、住民の生きがいについて学びました。例えば、相撲文化について教えてもらったり、昼から開かれていた地域の宴会に混じって交流を深めるチームもありました。参加者たちは、地区の魅力を写真に収めながら、地域の特徴や住民の生活の中にある誇りについて直接学ぶ機会を得ました。私たちスタッフとしても、参加者がどのように地域を捉え、何を感じ取るかを見守りながら、一緒に地域の魅力を再発見する瞬間を共有できました。



佐藤先生の講演: 熱い思いが響き渡る満員の会場で

 佐藤先生の講演は、この日最も注目を集めたイベントの一つでした。佐藤先生は旧都万村の診療所長として地域包括ケアシステムを抜本的に改革された実績があり、今でも都万地区の住民から熱い支持を受けておられます。そんな佐藤先生が都万に来て講演を行うとなると、会場は住民であっという間に満員御礼状態となりました。

 講演では、当時の医療改革の詳細から、現在取り組んでおられる岡山県の哲西診療所での活動まで幅広くお話いただきました。参加者の若者に向けては、離島や僻地で働くことの意義や、それをキャリアパスに組み入れる価値について熱弁。佐藤先生の熱い思いが、参加者や住民の方々に強く伝わり、会場全体が一体となるような感動的な瞬間が何度も訪れました。講演後には、多くの質問や感謝の声が飛び交い、佐藤先生の影響力の大きさを改めて感じることができました。参加者の中には、離島や僻地での医療に興味を持ち始めたという若者もおり、講演がそのきっかけとなったようです。



フィールドワークの振り返り

 佐藤先生の講演後、会場に残ってくださった住民の方々を交えて、フィールドワークの振り返りが行われました。参加者たちは、それぞれのグループで感じたことや学んだことをプレゼンテーション形式で発表し、住民の方々から様々な意見や感想をいただく場となりました。地域の現場で実際に体験した内容をさらに深め、理論的に整理する貴重な時間になったと思います。

本で読んだりネットで調べるだけでは得られない、実際に現地に足を運び、地元の人と触れ合いながら学んだ経験が、参加者たちにとって大きな収穫となったことは間違いありません。住民の方からも、「自分たちの住む地域の魅力をこれほど掘り下げてくれて感謝している」といった感想が多く聞かれ、地域と参加者の間に強いつながりが生まれた瞬間を感じました。






懇親会: 隠岐の魅力あふれるBBQ

 1日目のプログラムの締めくくりは、隠岐の名物BBQでの懇親会でした。隠岐の懇親会といえばやはりBBQが定番です。この日もお肉だけでなく、新鮮な海鮮物がたっぷり用意され、参加者たちは思う存分その味を楽しみました。懇親会は地酒・隠岐誉の鏡割りからスタートし、初対面同士だった参加者たちもこの頃にはすっかり打ち解け、活発に交流を図る姿が見られました。

 また、懇親会には様々なイベントが盛り込まれ、参加者も目一杯楽しんでいました。当院の小川先生所有のテントサウナコーナーや、BBQインストラクターの資格を持つ加藤一朗副院長が直接焼いてくれる本格的な肉塊コーナーが特に人気でした。さらには、イカの捌き方ハンズオンセミナーも開催され、参加者たちは自らイカを捌いてみるという貴重な体験をしてもらいました。

 懇親会が終わる頃には、あっという間に時間が過ぎ、一次会は終了。しかし、エネルギッシュな参加者たちはそのままロッジへ移動し、エンドレスの二次会へと突入しました。二次会は深夜まで続き、英雄たちは朝の5時過ぎまで飲み明かし、その後早朝のイカ釣りに出かけて行ったとのこと。参加者全員がこの懇親会を通して、隠岐の魅力を肌で感じ、心から楽しんでいた様子でした。















2日目の活動: 離島の虎〜OKI Edition〜

朝の釣りとリフレッシュ

 2日目の朝は、釣り好きの一部の参加者にとって早いスタートとなりました。5時過ぎにロッジを出発し、エギング(イカ釣り)に挑戦しましたが、残念ながらこの日はイカが一杯も釣れませんでした。その他の参加者も二日酔いや寝不足をものともせず、健康的に朝日を浴び、朝食をしっかり取って体力を回復させました。新鮮な空気と美しい風景に包まれながら、再びパワーがみなぎってくる感覚があり、準備万端で2日目の活動に臨むことができました。

グループワークのスタート

 朝8時30分から、2日目のメインプログラムとなるグループワークがスタートしました。この日は「離島の虎〜OKI Edition〜」と称した特別企画が目玉でした。参加者たちは1日目のフィールドワークや住民との交流を踏まえ、地域医療改革プランを発表するために熱心にプレゼンテーションを練り上げていきました。

この「離島の虎〜OKI Edition〜」は、YouTube番組「令和の虎」をパロディにしたもので、各グループが地域医療の改革案を現場で働く地域医療の「虎」たちにぶつけ、フィードバックを受けながらアイデアをさらに磨いていく形式です。

グループワークでは、参加者たちは1日目のフィールドワークで得た地域住民の声や現地の体験を元に、地域の課題を解決するための具体的なプランを作成しました。各グループには隠岐で実際に働いているスタッフも加わり、より現実的かつ実現可能な提案となるように議論が進められました。

住民との対話から得た洞察を反映させ、地域の課題に即した提案を目指すことで、柔軟な発想と現実的な解決策が組み合わさり、斬新で効果的なプランが生まれました。グループメンバーは互いに意見を出し合いながら、プレゼンテーションを完成させ、発表に向けた準備が整っていきました。



離島の虎セッション: 白熱のプレゼンバトル

いよいよ「離島の虎〜OKI Edition〜」の本番です。このセッションでは、前述の佐藤先生をはじめ、島前病院参与で島根大学総合診療医センター長の白石吉彦先生、隠岐広域連合の川﨑副連合長、隠岐病院の齋藤副院長が審査員として「虎」の役を務めました。実際の日々の隠岐の医療課題を鋭い目線で見つめてきた彼らは、各グループから出されたアイデアに切り込んでいきました。

今回のルールは、仮想資金として各グループに100万円が与えられ、その資金を使ってどのように地域医療の改善を図るかをプレゼンテーションする形式です。また、出資したいと感じた虎たちは、都万地区の地酒「高政宗」の一升瓶をテーブルに立て、いくつの瓶が立てられたかで評価を競いました。








各グループの提案とその評価

各グループからは、地域医療を改善するためのユニークで革新的なアイデアが次々と提案されました。以下はその一部です。

「らとこんたプロジェクト改 全世代交流促進」

廃校を活用した全世代交流の場を作り、シェアライドを導入して地域内の交通課題を解決するプラン。







「OKI EYE」











見守りカメラを設置し、新聞や宅急便などの既存インフラも活用して、高齢者の見守りサービスを提供するプラン。

「生きがいを運ぶスクールバス」

通学バスを高齢者も利用できるようにし、行動範囲を広げて新たな生きがいを創出するプラン。








「世代間の壁をぶっ壊す」

高齢者と子育て世代のコミュニティを融合させ、公民館の壁を物理的に壊し、世代間のギャップを埋めるプラン。










「診療所をホストクラブ、キャバクラ化」

喫煙や飲酒といった健康課題に対し、若者を中心に健康意識を高める場を作るユニークなアプローチ。








「空き家を活用!ございなサロン」

空き家を活用してカフェやサロンを運営し、地域住民が気軽に集まる場を作り、交流や課題解決の拠点にするプラン。





優勝プラン: 「世代間の壁をぶっ壊す」

この中で最も注目を集め、見事優勝を勝ち取ったのは「世代間の壁をぶっ壊す」プランでした。この提案は、世代間のギャップを文字通り「壁を壊す」という斬新な方法で解消し、高齢者と子育て世代の共同生活を促進するというものです。虎たち全員がこの提案に感銘を受け、全員一致でall-inの4升の高政宗が立てられ、見事優勝に輝きました。


優勝チームには、後日隠岐の新米が贈呈されることが発表され、参加者たちは大いに喜びました。



閉会と隠岐蕎麦でのフィナーレ

発表会が終了し、全員で記念撮影を行いました。激戦の「離島の虎〜OKI Edition〜」を終えた後、参加者や虎たちの目には達成感と満足感があふれていました。

最後に、都万の地元のお姉様方が心を込めて作ってくださった隠岐名物「隠岐蕎麦」を全員でいただきました。この温かいフィナーレを迎え、1泊2日のオキフェス2024は無事に幕を閉じました。あっという間の時間でしたが、参加者全員にとって忘れられない貴重な体験となり、地域医療や隠岐の魅力を深く心に刻むことができたイベントでした。
















まとめ: オキフェス2024の成功と今後への展望

オキフェス2024は、1泊2日の短い期間ながら、参加者と地域住民、そして私たちスタッフ全員にとって非常に充実した時間となりました。このイベントを通じて、離島医療の現実に直面し、その課題や魅力を体感する機会を提供できたことは大きな成果です。

今回のイベントには、医学生、研修医、看護学生、現役看護師、薬剤師など、さまざまな職種やバックグラウンドを持つ参加者が集まり、異なる視点から離島医療に取り組むことができました。さらに、全国各地から集まった参加者たちが一堂に会し、隠岐の地で共に学び、語り合うことで、地域医療の未来を共に考える貴重な場が生まれました。

「離島の虎〜OKI Edition〜」では、ユニークで斬新なアイデアが飛び出し、各グループが地域医療を改善するための現実的かつ革新的なプランを提案しました。優勝した「世代間の壁をぶっ壊す」プランは、世代を超えたコミュニティの融合を目指す意欲的な提案で、地域医療と住民のつながりをより一層強める可能性を示しました。この「虎」テンプレートは他地域でも活用できるはず!と確信しました。

このようなプログラムを通じて、参加者一人ひとりが地域医療の未来に貢献できる可能性を感じ取ることができたと確信しています。離島医療は、確かに多くの課題を抱えていますが、それと同時に、住民との絆や現場のクリエイティビティを活かした新しいアプローチが、医療の未来を切り開く鍵となることを参加者、スタッフ皆が感じたことでしょう。

これからも、地域医療や離島医療の発展に向けた取り組みを続けていく中で、オキフェスが一つのきっかけとなり、多くの医療者や住民が手を取り合って前進できる未来を描いていきたいと考えています。今回のイベントに参加いただいた皆様、そしてご協力いただいた地域の皆様に、心から感謝申し上げます。また、早速オキフェス2025に向けて始動していきます!