【上野 伸行先生】あなたが帰りたいと言うのなら、家に帰りましょう
●医師を志したきっかけ
小学校3年生の時に祖父が末期膵臓癌になり、在宅で最期を過ごしたことです。祖父の家は静岡の山の中にあり、一番近い診療所も車で30分ほどの所にありました。祖父が亡くなった時に往診に来てくれていた先生に母が”ありがとうございました”と言っていた意味が小学校3年生の自分には分かりませんでした。しばらくして母から大学病院に入院していた祖父が自宅に帰れたのはこの診療所の先生が自分の診療が終わってから祖父の家に往診に来てくれていたからだと聞き、自分も患者さんが家に帰るお手伝いができるような医師になりたいと医師を志しました。
●なぜ島根に
上記の理由があり、大学を受験する時にGoogle検索で地域医療に力を入れている大学を調べました。出てきたのは自治医科大学、東北大学、島根大学(島大)でした。島大のオープンキャンパスの時にちょうど台風が来てしまってオープンキャンパスが中止になってしまったのですが、ダメもとで大学に行ったらわざわざ校内を案内して下さりました。この時に、島大受験を決めました。面接の時に「君は東京出身で地域医療がしたいと言っているけど、それじゃあ島根の県民性はどんなだと思う?」と面接官の先生に聞かれたことを今でも良く覚えています。
●学生時代
中高ずっと柔道をしていましたが、島大には柔道部がなく水泳部に入りました。部員全員で目標に向かって努力したことはとても良い思い出です。また、低学年から春季・夏季地域医療実習に参加させていただき島根出身の自治の先生方とも顔見知りになれた事は自分にとってとても良い経験だったと思っています。
●将来は島根で働こう
東京出身の自分が島大に入ったことで将来島根で働こうと思っている誰かは入れなかったかもしれない+育ててもらった島根に恩返しができれば+圧倒的に患者さんがやさしいことから学生時代から将来島根で働こうと考えていました。
写真:あさひ診療所
●初期研修
どうせずっと島根で働くのなら最初は外に出てみようと沖縄での初期研修を選択しました。沖縄は離島がたくさんあり、3年目から離島で働けるように教育する伝統があるとの事で沖縄を選びました。沖縄での研修は大変だったの一言ですが、医師としての大切な土台を作れた2年間だったと思います。
●後期研修で島根県立中央病院(県中)に
初期2年目の最初の頃は沖縄で専門医まで取って島根に帰った方が島根の役に立てるのかなと思っていました。初期2年目に1か月有給をもらって島前病院に実習に行かせてもらいました。不明熱→深部静脈血栓症の患者さんがいてDOAC内服を始めましたが、いつからリハビリを始めて良いものか分かりませんでした。結局沖縄の循環器の指導医に聞いてリハビリを開始しました。このまま沖縄にいたら島根に戻った時に困ったことを聞ける人が近くにいないんだと思い、後期研修は島根最後の砦の県中で行うことにしました。
写真:診療所で同じ連合体の佐藤誠先生と
●浜田市国保診療所連合体へ
県中の後期研修が終了する際にどこで働こうかと悩みました。島前病院白石先生からは10年は修行してきなさいと言われているし、津和野は大変そうだし…そんな時、初期研修時代にわざわざ沖縄まで会いに来てくださった弥栄診療所の阿部先生を思い出しました。(阿部先生は谷口先生と後期研修プログラムで浜田に来ないかとわざわざ誘いに来てくれました。結局県中に知っている人がいる方が今後島根で働く上で役に立つと考えて県中を選択しました)阿部先生に連絡を取ると是非一緒に働きましょうと言ってくださり、私が週2日津和野の支援に行くことも了承してくださいました。
●現在
2児の父、子育てと地域医療に奮闘する日々です。あさひ診療所所長としまね総合診療センター火曜日担当をしています。あさひ診療所は月、水、金、土診療を行い、火曜日はしまね総合診療センター、木曜日は浜田医療センター総合診療科で働いています。少しでも一緒に地域で働く仲間が増える様に自分が経験してきたことや地域医療の大変さ・やりがいを学生さんや研修医の皆さんに伝えられれば良いなぁと思っています。
写真:あさひ診療所発行のあさひ新聞:訪れた方が持って帰る事ができるようになっています。
●私の考える総合診療医の強み・専門性・やりがい
自分の日々の生活が診療に活かせることだと思います!子育てを経験して予防接種の際に本気で産後うつのスクリーニングが実践できるようになったり、吹雪の中を通勤してやはり落ち着いている患者さんは冬は長めの処方にしようとしみじみ感じています。
●モットー
「あなたが帰りたいと言うのなら、家に帰りましょう」
●私の1週間
【略歴】
島根大学医学部卒業
友愛会豊見城中央病院(沖縄県) 初期研修
島根県立中央病院総合診療科 後期研修
飯南町立飯南病院
浜田市国保診療所連合体 あさひ診療所 (現在)
【取材者より】
上野先生は医学生の頃から、積極的に島根全体の見学に訪れ、島根出身の方と思われるほど、島根の医療に詳しく、島根に溶け込んでおられます。その物腰の柔らかさに加え、実は体格はがっしりしており、お会いすると診療所長としての風格を感じます。ぜひとも、これからも島根の医療をつなげるキーマンとして活躍ください!
遠藤健史